#美味しいライバル















食後に一服しているトシ君の姿をを見つけた。




「あれ?トシ君何飲んでるの?」




その彼の手には煙草と…青紫色というか赤紫色というか、奇妙な色の飲み物がある。
気になってつい声をかけた。



「野菜ジュース…じゃないよね?」

「違えよ。」



そう簡潔な返事が返って来たけど
それが‘何なのか’というのは教えてくれなかった。



…多分すっごい変なものなんだろうな。
見るからにまずそうだし。
もしこれが美味しかったら蛙だって生で食べるわ




「飲んでみるか?」


そう言ってトシ君があたしの前にコップを差し出して来た。



「…いらないそんなの」
「何がそんなのだ!」



そんなの で充分だよ、そんなの。
だってモロに変態色だし。



「人がせっかく好意で言ってやってんのによ」

「良いこと教えてあげるよトシ君。好意だって相手が望まなければただの迷惑になるんだよ。」



ふてくされてるトシ君に嫌味ったらしく言う。
トシ君は更に不機嫌な顔になって呟いた。



「…チッ、可愛くねえ」



そしてトシ君はそれを全てグイッと飲みほした。結構量あったのに。

…そんなに美味しかったのかな?アレ。
そう思うと、ちょっと飲んでみたかった気もする。




そんなことをぼんやり思っていると





「―





そう呼ばれて、いきなり首のところに手が伸びて来た。



そして










――グイッ










「…ッ!?」





唇に何かが触れたと思った瞬間、冷たい液体が口の中に流れ込んできた。

量が多すぎて、あたしの口に納まらない。
そして下へポタポタとしたたり落ちていく。

全てを移し終わっても、トシ君はあたしを放そうとしてくれない。




「ふっ…く…苦しッ…」




とうとう息が限界になってトシ君の胸をドンドン叩く。




(死ぬ!酸素!死ぬ!!)




それ自体は痛くも痒くもなかっただろうけど
トシ君は仕方ないと言った表情で、ゆっくりあたしの唇を解放した。

その瞬間ゼーハーとあたしの荒い息つぎが始まる。




「バババババカヤローッ…!!死ぬかとおお思ったぁ…!!!ハァッハァッ…」

「だからお前鼻で息しろって何度も言ってるだろ?」

「難しいんだよそれェェ!簡単そうで超上級なの!!」

「そうかよ」




それからトシ君はあたしの顔や服についた液を拭き始めた。
わぁ優しい。
でも君のせいだしね。と、黙って拭いてもらっとく。




「―ところで」

顎の部分についたものを優しくこすり取りながらトシ君が、口を開く。



「味はどうだった?」

「味?」


え、キスの?


「ジュースの味」


「………」






ジュー… ス?









思い出した瞬間。








「うお゛え゛ええぇぇぇぇ不っ味うぅぅ〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!!!」







いきなり口の中にもやもやが広がって思わず叫んだ。
思い出したように口中をはいずりまわるその味。



キスの衝撃のせいで忘れてたけど

このジュースかーなーりまずい。



何の味か知りたい?知りたい?
土方十四郎といったらコレだよ。





マヨネーズ。





そうですあの変態色のジュースはマヨジュース。

口の中が酸っぱいような甘いような何とも言えないキモい味でいっぱいになってる。




「バカトシッ!何でマヨネーズをジュースにすんのっ!?」

「美味しそうじゃねーか」

「まずいじゃん、実際!!しかもこの色何!?どうしたらこんな変態色になるの!?」

「知るか。いろいろ混ぜたらそうなった。」

「うわ〜、マジセンス無い…。」

「うるせえ」








でも正直



口移しはちょっと嬉しかったかなーなんて

ジュースは殺人的なまずさだったけど



いつもトシ君のいちばんはマヨネーズで

マヨネーズなんか大嫌いだったけど







初めてマヨネーズに感謝してしまった なんて






何か悔しいから絶対言ってやんない












FIN











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