今日は手紙の日





この気持ちを口には出来ないから

手紙を書くことにする













以心伝心














「何書いてんだ?」
「うおああああいきなり何だい土方君ンン!??」

「リアクションでけーよ」



土方さんがいきなり後ろからが覗き込んで来るからじゃん!
と、心の中で叫ぶ。

そして思わず目の前の紙をぐしゃりと握り潰した。



「お前その紙そんなグシャグシャにして良いのか?」


土方さんにそう言われて初めて紙の惨状を知る。


「はッ!!何してくれちゃってんの土方ァ!!?」

「ふざけんな」





―ある日の午後。
今日は「手紙の日」だとテレビで言ってた。


だから、あたしは日ごろの感謝を伝えるために手紙を書いていた



…わけじゃない。



ずっと告白しようと思っては挫折してきた、土方さんへの想い。

でも今日という日を活かさない手は無い。

手紙に想いを乗せて、土方さんに届けるんだ…!





「…と、いうわけなのでどっか消えて下さい」
「わけわかんねえから」
「うるさいです」
「テメーなあ」
「も〜何なんですか!?ストーカーですか貴方!」
「阿保か!俺が何の用もねえのにテメーの部屋に来るわきゃねえだろうが」


半ギレでそう言う土方さん。
…ああ確かに。
改めて冷静に考えると確かにそうだ。


「じゃあ、どうしたんですか?」


仕方なくたずねると、土方さんは淡々と答えた。



「客だ、お前に。」
「客?」
「ああ。今外に居るぜ。超色男がな。」



キャッ、いろおとこ!?



いやいやいやでもあたしは土方さん一筋ですからねモチロン!
どんな色男にだってあたしはなびかないし!
っていうか土方さん以上にかっこいい人なんかトムクルーズくらいだし!






――と心の中で思いつつ、軽い足取りで玄関の方へ向かった。

土方さんの冷たい視線を浴びながら。あへへ。



いつの時代も女の子は美少年が好きなのだよ!


好きっていっても、ラブじゃないけど。






























「あっちゃぁ〜ん!!嬉しいな君と話せる日が来るなんて〜ゲヘヘッ」」





………えっ?
まさかテメーじゃないですよね?





だって色男のいの字どころか、字を書くための鉛筆が見当たらないんですが。
でも外にはこの人しか見当たらない。
何この状況。




や ら れ た 。




(ひじかたぁぁぁこのやろぉぉぉぉがぁぁぁぁぁ!!!!)




心の中で叫んだ。
叫ぶしかなかった。


野郎ハメやがった…!!


「あのっ、ちゃんっ!ハァハァ」
「なんすか」


明らかに冷めた返事を返す。
だってさ、ハァハァって何だよ。きもいよ。




「僕、ずっと君を見て来たんだっ…。でも僕シャイボーイだからなかなか言い出せなくて…
でも知ってるかい?今日は手紙の日なんだ!だから僕は今日、自分の気持ちを手紙に乗せて来たんだ!是非読んでくれ!」




待て。



あたし、コイツと同類かよ。



いい年して僕とか言うやつと。
何かやたら太ってるやつと。
オタクストーカーを絵に描いたようなやつと。
何かすでに勝ち誇ったような顔したバカと。



やめてくんないホントやめてくんない



そんなことを強く思いつつ、呆れて口に出せないでいた。
すると


「ああ麗しのちゃん…感動して声も出ないんだね?分かるよ、君も前から僕のことを見つめていたんだものね。」


調子に乗ったストーカー男がそんなことを言いながらいきなり手を握ってきた。



っつか何の話ですかマジで頭大丈夫?

殴りたい蹴りたいっていうより刺したいんですが。
刀があったら真っ二つにしてるところだよ。
でも生憎今手元に刃物の類はない。




…チッ



「んなっ…いきなり大胆だなあああちゃん…っ」


あたしが舌打ちすると男はいきなり鼻息を荒くし、顔を赤らめ始めた。
え、何が大胆?舌打ちが?M男か、コイツ



「…なにがですか」

「『チュッ』だなんて…キスして欲しいならしてあげるのにィ〜」

「………」





開いた口がふさがらねえ





今時のストーカーってこんなにポジティブなんすか
チュッ(キス)とチッ(舌打ち)の違いも分からないなんて



もういい加減コイツの手をなぎ払ってぶちのめしてしまおうか

そう思い、空いてる方の手をかまえた時。





チ〜ン、ちゅ〜vvv」





(ぅひぃぃぃぃッッッ!!!??)





いきなり不細工すぎる顔が目の前に迫って来た。
あまりのキモさと衝撃で、体が動かなくなる。
そのうえこのデブに両肩をガッシリ掴まれていて、ピクリともしない。

くそぅデブのくせになかなかやるじゃねぇか!


ってんなこと言ってる場合じゃねえ


唇がキモい唇が目の前に
心なしか何かくさい



ちょっちょっちょっ…キモい!!



「やめ…っ」

耐えられず目をつむった。





そして抵抗も虚しく

次の瞬間、唇に柔らかい感触が広がった





あーあ土方あのヤロー覚えてろよ。
あたしのキスこんなデブにまんまと奪われたよクソが

もう一ヶ月は口聞いてやんない

…あああダメだ





そんなのあたしが耐えられない





ってかコイツの匂い…土方さんとおんなじだ…
土方さんと同じ煙草の匂いがする。
さっきは何かくさかったのに。今は…何故か好きな匂い。




そう思ったらなんか少し落ち着いた。
っていうかどうでも良くなって来た。

しかも何かキス上手いんですけどコイツ…。デブのくせに相当遊んでんな。




そう思って目を開くと同時に、唇が放された。

で。







「…あり?」







何かスゴイカッコ良い顔が目の前にあった。

あら?デブ男は錯覚だったのかしら。

なんてあたし好みな…そう、まるで




「土方さん…?」




っていうか…本人、だった。
明らかに。

確かに土方さんだった。まさしく土方さんだった。




「…俺がこのクソデブにでも見えたのか」




不機嫌そうにそう言う土方さん。…だよね?
だよねっていうかやっぱコレって



「え!?土方さん!?え!!?」



パニックに陥ったあたしをシカトして土方さんはあたしに背中を向けた。
するとその向こうには例のデブ男が。(やっぱりキモかった)

そして土方さんはそいつの胸倉を強く掴むと、最高に低い声で




「テメー自分が何したか分かってんのか?」




と言い、ギロッと睨んだ。

瞳孔開いてるし。しかもめっちゃヤンキー口調。

あたしのために怒ってくれてる…んだよね?
でもこうなったの貴方のせいですよね?

それに何したって言ってもあたし何もされてないし。
手は握られたけど、そんくらい。




デブ男もそれと同じようなことを言って、土方さんの前に例の手紙を突き出した。
そして言った。




「まだこのラブレターを渡してないんだ!!ちゃんに読んでもらうんだ!!」

「うるせえ燃やして捨てろ。失せろストーカーデブ」




精神的ダメージを与えた後、土方さんは腰からスラリと刀を抜き。
そして目の前の手紙を早業で何度も斬り、粉々にしてみせた。


デブは状況を理解出来ずに固まる。




そうして土方さんは手紙とデブ男の心を綺麗に斬り捨てたのでした。




デブは目を白くして一気に血の気がひいた顔色になり。
魂が抜けたようなゲッソリした感じになった。(デブだけど)



そしてそのままふらふらとどこかに去っていってしまった。



それほどあの手紙に自分の魂を込めていたんだ…
そう思うとちょっと可哀相な気持ちになる。






そして残されたあたし達。




「…土方さん、どうするんですかアレ。自殺しかねませんよ」

「知るか。死にたきゃ勝手に死ね」

「貴方ね、仮にも警察でしょうが。だいたい何なんですか一体」

「何が」

「嘘つくし、いきなりキスするし、手紙斬るし」

「可愛いいたずらじゃねえか」

「ハッ何処が」




鼻で笑ったらペシンと頭を叩かれた。
だって変なこと言うんだもん。
次に土方さんが



「俺のキス嫌だったのか?それともあのデブの方が良かったか?」



と、聞いて来た。




「…どっちもNOです」
「だろうな」




土方さんは可笑しそうにクッと笑った。
全くこの人は本当に。
こんなかっこいい大人なくせに、やることは子供みたいで。




「お前は俺の事が好きだしな」

そーで……え!?」




土方さんがサラッと自過剰発言。



「…土方さんナルシストですか?何でそんな自信たっぷり」

「アホ。お前が丸めたラブレター読んだ」

「!?」

「そんな顔すんな置いておく方が悪いだろ。」



いーや、見る方が悪いだろ。と、心の中で控えめに突っ込んでおく。



「…お前にはラブレターなんか必要ねえ」



土方さんはそう言って煙草をふかしはじめた。
勤務中のくせに。


それにしても


「…どういう意味…?」


あたしが意味深に尋ねると、土方さんは人差し指であたしの鼻をぴっと指し。


「もっとわかりやすいもんがあるから」


と言った。




「もっとわかりやすいもの…?」

「―お前の顔。俺の事が好きだって書いてあるぜ」

「!?」




あたしは思わず自分の顔を触って確かめた。
もちろん何も異常はなく。
そんなあたしを見て土方さんはアホと言って笑った。




「ラブレターなんてのはな」

「…?」

「俺みたいな奴が書けばいいんだよ」




…え?


すると土方さんは懐から紙きれを取り出した。
手紙というにはあまりに粗末だけど、何かが書かれている。
そしてあたしにそれを差し出した。


そこには







の笑顔が好きだ
をいじめるのが好きだ
の声が好きだ
の怒った顔も好きだ
の全部が好きだ







箇条書で、そう書かれていた。





「今日は手紙の日だからな」

「…土方さん」

「何だ」

「手紙の書き方知らないんですか?」

「っ…うるせーよ!」




土方さんも同類だった。
あたしや、あのストーカーデブと。




「返事ちゃんとよこせよ。分かりきってるけどな。」



土方さんが少しムスッとした顔で言う。
そんな土方さんにあたしは。



「…何言ってるんですか?」

「は?」

「土方さん、あたしの顔見れば何でも分かるって言いましたよね。」

「まぁ…(何でも?)」

「じゃあ、あたしが今どうしてほしいか分かりますよね?」

「…何でそういう話に…」




土方さんはあたしの言葉に少し困惑の表情を見せた。
でも気にしない。

土方さん俯いて考え込む。
あたしはそれを黙って見つめる。






わかるでしょ?わかってよ。







あんなのじゃ、ヤダって







そしてしばらくしてから、土方さんは思い付いたように顔をあげた。

それから一歩一歩あたしに近づいてきて
数秒あたしの目を見てから







優しく口づけた。








すごい…、本当に

してくれた









「…本当に分かるんだ」

「当たり前だ」








ホラ、さっきあんなクソデブとキスしちゃったかと思ってたから

土方さんとキス出来た嬉しさとかあんま感じられなかったから






でも今度は、嬉しくて口が緩む。













――今日は手紙の日



普段、恥ずかしくて口には出来ない気持ちを



あなたへ。
















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